元家裁書記官が教える相続のリアル|「法定相続分で分けてくれればいい」この言葉が全く通用しない理由
よく聞くこの言葉
以前も紹介したデータですが、2025年の日本財団の調査結果によると、60代・70代の男女で遺言書を作成しているのは全体の3.4%で、8割の方が作成予定や意向が無いとのことです。(出典:日本財団「遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査 要約版」※PDFファイルが開きます)
また、この調査では回答の理由についてのデータも載っているのですが、その中で私が特に気になったのは、「遺言書を作成していない理由」「遺言書を今後も作成しない理由」の両方で上位の回答となっている、「法定相続通りに分けてもらえればいいと思っているから」というこの言葉です。
確かに、相続の話になると、「法定相続分で分けてくれればいい」というのはよく耳にしますし、中には親からそう言われたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「法定相続分」の本当の意味
では、その「法定相続分」とはいったい何なのでしょうか。
配偶者が2分の1で、子どもが残りの2分の1を均等に分けて…といった数字については何となく知っているという方は多いと思います。
ただ、その数字がどのように働くかについては、意外と正確には知られていません。
そこで、突然ですがここでクイズです。
Q. 次のうち、法定相続分の説明として正しいものはどれでしょう。
① 遺産分割協議や裁判所の審判における目安
② 遺言がないときに預金や不動産にそのまま適用される、法律で決められた相続分
③ 遺留分の計算に使う数字
④兄弟姉妹以外の相続人に法律上保障された最低限の取り分の権利
正解は、、、
②
ではありません。
①と③
でした!
法定相続分は、遺産分割協議や裁判所の審判で目安として利用されていますし、遺留分の計算には法定相続分の数字を使用します。
④は遺留分の説明ですね。
②についてですが、遺言がないときは、預金債権や不動産の帰属は相続人全員で協議して決めるのであって、法定相続分が自動的に適用されるのではありません。
確かに損害賠償請求権(不法行為・債務不履行に基づく請求権)、不当利得返還請求権、賃料請求権、報酬請求権など、預貯金以外の可分債権は遺産分割の対象とはならず、遺言がなければ、法律上当然に法定相続分に従って各相続人に分割されます。
しかし、預金については、以前は法定相続分に従って当然に分割されるという扱いでしたが、平成28年に最高裁判所が判例変更し、遺産分割の対象となると判断しました。
よって、預金についても、不動産についても、遺言がなければ遺産分割協議をする必要があります。
遺産にもいろいろありますが、通常はやはり預貯金と不動産が大部分を占め、他はあっても現金ぐらいなものです。(※生命保険の死亡保険金は遺産ではありません。)
現金も遺産分割の対象となりますから、結局、遺産のほとんどは遺産分割協議をする必要があるということになります。
そして、遺産分割協議が整わないときには、家庭裁判所の調停や審判の手続きを利用することになります。
当然、法定相続分で分けるとしても、法定相続分で分けるということに相続人全員が合意する必要があるのです。
これを遺産分割協議という形にするかどうかはさておき、遺言がないときは相続人全員の合意が必要であり、相続人のうち誰かが反対すれば、裁判所へ行くしかないのです。
以上のことから、「法定相続分で分けてくれればいい」というのは、結局のところ、「自分は関与しないから、相続人全員で話し合ってくれ」という相続人への負担丸投げに過ぎないということが分かります。
もし、「法定相続分で分けてほしい」のであれば、その内容で遺言を残すべきであり、遺言を残さないなら、それは単なる感想になってしまいます。
なぜ自動的に分割されると思ってしまうのか
遺産分割の話と混同しやすいのが、遺産となった預金や不動産の名義変更の話です。
実は、遺産分割協議書がなくても、預金を法定相続分に応じて名義変更することは可能なんです。
ただ、この場合、銀行所定の「相続届」という書類に、相続人全員が署名をして、実印を押すことになります。
これって遺産分割協議書とほとんど同じなんですよね。
相続人のうち誰かが反対して署名押印を拒否すれば、名義変更はできません。
つまり、遺言書がない場合に預金の名義変更をするには、遺産分割協議書もしくはそれと同等の書類が必要で、相続人が各自勝手に法定相続分を引き出せるわけではありません。
また、遺産分割協議書がなくても、被相続人名義の不動産を、法定相続分に従って相続人名義で登記することも可能です。
しかも、これは相続人のうちの一人が単独ですることができます。
ただ、この場合の登記の内容は共有であって、不動産の一画が自分のものになるわけではありません。
遺産分割協議をするまでは、相続財産は相続人全員の共有となる(民法第898条第1項)ため、その現状を登記したに過ぎません。
よって、その不動産を処分(売却・長期の賃貸・担保に出す等)する際には、共有者全員の同意が必要となります。
また、このような相続登記をした後に遺産分割協議が成立すれば、その割合に登記しなおすことになります。当然、手数料は2回分かかるので高くつきます。
なお、〇分の1といった共有持分自体は各自売却することができますが、それを購入した人も共有者の一人となるため、同じように処分や利用に制限がかかります。
当然、そのような権利を買ってくれる人はなかなかいませんし、また売却できたとしても価格は安くなってしまいます。
このように、遺産分割協議書がなくても、法定相続分による遺産の名義変更はできますが、イコール法定相続分が自動的に相続人のものになる、ということではないのです。
相続手続きに遺産分割協議書は必須ではない⇒遺産分割は必須ではない⇒相続人全員の合意は必須ではない⇒法定相続分で自動的に分割される
という誤った認識にならないよう注意が必要です。
まとめ
長々とややこしい話を書きましたが、大事なことは「遺産がすべて法定相続分で自動的に分けられることなんてない」ということです。
とにかくこれだけは覚えておいてください。
「法定相続分で分けてくれればいい」と漠然と考えていた方は、この機会に、相続人の負担を減らすための終活を考えてみてはいかがでしょうか。
当事務所では、終活のお悩みについても分かりやすく整理し、 一人ひとりの状況に応じたサポートをいたしますので、お気軽にお問い合わせください。
